2019-06-29

音楽

 うろ覚えのことだが前に(まーーーーーーーーえーーーーというぐらい前だが)リヒテルが「なぜ譜面を見ながら演奏なさるのですか?」と訊かれたとき「作曲家の意図したことを落としたくないからだ」と答えていたことがあった。
当時の私はピアノを演奏をするときはその音がすべて頭に入っていて それを表現することが演奏することだと思っていたからだ。あれから長い年月が経って私は音楽というものに経験を積んできた。そしてある時ふと思った。私は音楽の深遠な美を知っていない。彼らは微妙にもデリケートで光り輝く美の世界を楽譜に書き込んでいるではないか。それはハイドンのピアノソナタの23番 第2楽章 第1小節目のことだった。第4拍、左手は3連音、右手は32分音符で書かれており、厳密にリズムを守って音を出すとそのすれ違いの響きがなんと不思議な得も言われぬ心を揺さぶるではないか。ハイドンは天から与えられた感覚で新しい美を私たちに聞かせてくれたのだ。
私はリヒテルの意味を悟った。楽譜とはなんと微妙で面白いものであろう。その音楽に 妙に揺れる襞に心を任せる幸せにようやく行き着いたと思った。
「先生のピアノの音が話しかけてくれたんですよ」という、聴いてくださった方の言葉は本当に嬉しいものだった。

室井 摩耶子

2019-06-01

今まで弾いていたBachをまた弾きたくなって音を出してみました。
平均律曲集第1巻の8番 変ホ短調の涼しげな響きに、あぁ私はピアニストでよかった等と深呼吸をしています。
皆さまもBachの涼し気な抒情的な風景を楽しんでみてはいかがですか。
え?Bachにこんな優しい美しさがあるなんて一寸びっくりなさいますよ。
なんとデリケートで深いお話をしていることでしょう。

室井 摩耶子